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買ったマンションが値上がりするって本当?

カテゴリー:市場分析  2014年8月5日 

 東京カンテイさんがびっくりするような記事をアップされてました。
「駅別のマンションPBR、表参道駅がトップ」
http://www.kantei.ne.jp/release/PDFs/80PBR_shuto.pdf
...
PBR(price book-value ratio)は株価純資産倍率で、株価を一株当りの純資産額で除した数値ですが、東京カンテイさんは

  マンションPBR=中古価格/新築価格

という表記で現して、東京カンテイさんは「新築で買ったマンションが中古市場で何倍の価格で取引されているかを表す数値」だと言ってます。

ビックリですよ。
東京カンテイさんは、いったい何を考えてこんな馬鹿げたことを言っているのでしょうか。

論より証拠です。

早速、マンションの取引価格の推移を調べてみましょう。
調査対象には、「一番値上がり」していると言っている表参道駅近マンションと、「一番値下がり」していると言っている京成大和田駅周辺マンションを見てみましょうね。




まず、表参道駅近マンションです。
1982年築から2006年築までの5つのマンションを
ピックアップしました。選定に当たっては各年代にわたって5事例以上の成約事例のあるものを選んでいます。

この図を見ていただいて何が見えますか?

30%以上の「値上がり」が見えますか?

見えないですよね。むしろ右肩下がりです。

買ったマンションが大幅に値上がりするなんて、今の時代はありえないんですよ。土地価格が何倍にもなったバブル期にはそうした事例はありましたが、土地神話の終わった今の時代には数倍も土地があがることは無いのです。

では次に50%も値下がりしたと言う京成大和田駅周辺のマンション価格の推移を見てみましょう。




 千葉県のこの地域は、バブル崩壊後に住宅地の地価が1/10に下落した地域です。なので当然にマンションも急低下しており、1992年から2002年までの10年間で140万円/坪から40万円/坪へと急激に下がってます。その後も右肩下がりの傾向が続いています。

もし新築で坪110万円以上で売り出されていたなら、築10年のマンションが坪60万円前後で取引されているので、確かに50%も下がっているんでしょうね。でも赤マークの2005年9月築のマンションを見ると、ダラダラ下がっているのではなく、むしろ下げ止まっているようにも見えます。

(1)マンション価格は何で決まるか。
そもそもマンションの価格は何で決まるんでしょうね。
通常、マンション価格は以下の価格で現されます。

マンション価格=専有部分の所有権価格+敷地の区分所有権価格

専有部分価格は建築費等が100万円/坪程度が初期値で、その後は経年劣化(減価償却)によって、最低でも年2%の減価を生じます。10年経てば20%の減価は当然です。

では敷地の区分所有権価格はどうでしょう。
当然に地価上昇で値上がりし、地価下落で値下がりします。

実はマンションは土地単体と違って、土地価格と建物価格の和ですので、その効き方が地価水準によって異なるのです。

(2)表参道のマンション価格の内訳
表参道は容積率500%の地域で、地価は2,000万円/坪なんて言う高地価地域です。マンションの敷地区分所有権はおよそ容積率100%当りの価格(一種単価)に近似されますので、敷地区分所有権価格はおよそ400万円/坪(=2,000万円/500%)です。

例えば直近10年で地価が10%上昇していたとすれば、表参道の高級マンションですから建物も上質で当初は130万円/坪もかかっていたでしょうから、

 10年前の新規価格=130万円(建物)+400万円(土地)=530万円/坪
 現在の中古価格=100万円(建物)+440万円(土地)=540万円/坪

というように地価上昇によってマンション価格が若干値上がりすることがありえます。でも、30%も上がるには、建物価格の低下を上回る急激な土地価格の上昇が必要です。だから今ではそこまではないということなんです。せいぜい横ばいか若干の上昇程度。

図に示されているように、右肩下がりの基調はまさにそれを現しているのであり、決して「持ってるだけで新築より値上がりする」なんてバブルのようなことは無いのです。

 ※もちろん番町や麹町のような特別な地域のマンションは
  希少性によってバブル的な取引はありえます。

(3)京成大和田のマンション価格の内訳
大和田を含めて、千葉県住宅地は今世紀に入ってもダラダラと値下がりが続き、ここ10年でも坪40万円から坪30万円まで30%程度の値下がりが見られます。低層三階建で敷地を広々とっているので、区分所有権割合も100%程度あります。よって地価下落額がそのままマンション価格の下落になります。
この辺りのマンション建築費は90万円/坪程度であり、経済的耐用年数は30年程度と査定され、また設備の経済的減価速度は速く10年でゼロになると考えられるため、結果的に建物価格は当初10年で1/3に低下するものと考えられます。

 10年前の新規価格=90万円(建物)+40万円(土地)=130万円/坪
 現在の中古価格=30万円(建物)+30万円(土地)=60万円/坪

となりますので、大和田地区のマンション価格の下落をこのように説明できるのです。

(4)東京カンテイの誤謬は何故起きたか
難しい話ではないです。表参道駅近中古マンションの直近の成約価格を、横軸建築年次で表した図を示します。


単純に新しいマンションほど価格が高くなっており、近年は新築マンションの価格が上がっているので「10年前の新築価格よりも今の新築価格が高い」というだけのことです。市場平均価格と個別マンションの価格推移とを区別できない、統計上のアヤということに過ぎないのです。
個別にマンション価格を見れば決して30%も値上がりしているわけではないのです。市場価格が上がっているだけなのです。

統計を知らない方が不動産を見ると誤ります。
不動産鑑定士は統計も当然に理解して定量的な判断をするので、こうした誤りはしないのですが、東京カンテイさんは何を初歩的な誤りをしてるんでしょうかね。



トップ写真はヤンゴンの高級マンションです。

ミャンマーの首都ヤンゴンでは、2011年の民主化以降、昨年までに凄まじい地価上昇が起きていました。理由は簡単、軍事政権時代に利権を全て握っていた軍事政権関係者(国民の0.1%)が、スーチーさんの復帰による資産没収を怖れ、マネーロンダリングのために投機資金が流れ込んだためです。既にヤンゴン中心部の住宅地は麻布周辺の地価水準まで上昇し、インテリジェントビルのオィフス賃料は六本木ヒルズ並みに上昇しています。


この高級マンションは販売開始(建築確認時点)から分譲が開始されて即日完売となりましたが、その後がすごい。まだ建物が影も形も無い段階から「転売」が開始されるのです。転売の度に価格は吊り上り、多い部屋では10回も転売されるほどだそうです。

マンション竣工時に最高値をつけ、その後はみるみる値下がりするという状況だということですが、詳しくはまた追って解説させて頂きます。






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